地震から家族を守る!食器棚が「自動でロック&解除」される魔法の金具 ムラコシ精工『耐震ラッチ』

今すぐ、ご自宅のキッチン吊戸棚の内部(上方)を覗いてみてください。下の写真のような部品がついていませんか?

実はこの金具、いまや多くのシステムキッチンや家具に標準装備されている「耐震ラッチ」と呼ばれるものです。

「大きな地震が来たら、キッチンの食器棚からお皿が飛び出して割れてしまうかも……」 そんな不安を感じたことはありませんか?

地震の際、割れた食器が床に散乱すると、足元が危険になり避難が遅れてしまう原因になります。

普段は目立たないこの小さな金具ですが、実はいざという時に私たちの暮らしと命を優しく守ってくれる「魔法の金具」なのです。

今回は、普段は目立たないけれど、いざという時に私たちの暮らしと命を優しく守ってくれるムラコシ精工の「耐震ラッチ」の誕生秘話をご紹介します。

中山紀文のアバター 中山紀文 著者

1998年4月に(株)創樹社に入社。住生活産業の総合情報誌であるハウジング・トリビューン編集部で住宅建材などの分野を担当。屋上緑化などを取り上げた緑化・環境建築に関する専門紙を担当した後、ハウジング・トリビューンの取締役編集長に就任し、ハウスメーカーや工務店、関連行政機関などに対する取材活動を行う。2013年4月から代表取締役社長に就任。

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阪神・淡路大震災の教訓と、一人の「新入社員」に託された使命

今から約30年前の1995年1月17日。未曾有の被害をもたらした「阪神・淡路大震災」が起きました。
激しい揺れによって多くの家で食器棚の扉が開き、中のグラスやお皿が飛び出して割れてしまいました。この光景を目の当たりにしたムラコシ精工の社長(当時)は、「自動で扉をロックする金具があれば、この悲劇を防げるはずだ!」と、すぐに開発を指示しました。

その大役を任されたのは、その年に入社したばかりの新入社員だった菊地さんでした。

実はムラコシ精工は、ネジなどの金属加工で100年以上の歴史を持つモノづくりのプロ集団。組み立て家具を何度も分解・組み立てできるようにした「鬼目ナット」などを開発してきた実績があります。

「社歴に関係なく、若い力に挑戦させる」という会社の温かいサポートを受けながら、新入社員の菊地さんは先輩たちの知恵を借り、わずか1年足らずで最初の耐震ラッチを完成させました。

開発の壁:ヒントは「自動車のシートベルト」の中にあった!

最初に作った耐震ラッチは、「扉を開けるときに、取っ手を引くことでロックが解除される」というシンプルなものでした。

しかし、時代が進むにつれて、世の中には「地震の揺れを自動で感知してロックする(感知式)」タイプが登場し始めます。

当時、他社が作っていた感知式は、揺れでロックがかかった後、「扉をコツンと叩いてロックを解除する」というひと手間が必要でした。

これを知ったキッチンメーカーの担当者は悩んでいました。

「せっかくお気に入りのキッチンを買ってくれたお客様に、『ロックが解けないときは扉を叩いてください』とはなかなか言えない……」

そこでムラコシ精工は考えました。

「電気を使わずに、地震の揺れが止まったら自動でロックが解除される仕組みは作れないか?」

再び開発に挑んだ菊地さんが目をつけたのは意外なものでした。それは「自動車のシートベルト」。

シートベルトは、急に引っ張るとガチッとロックがかかりますが、力を緩めると自動でスルスルと元に戻ります。

「この仕組みを応用すれば、自動でロックが解除できるはず!」

そう確信した菊地さんは、自動車のスクラップ工場へ足を運び、廃車のシートベルトを分解してその構造を徹底的に研究しました。

「起き上がり小法師」から生まれた、驚きのWセンサー構造

研究の末にたどり着いたのは、「円すい型のコマ」のようなセンサーでした。

福島県の民芸品「起き上がり小法師(こぼし)」のように、揺らしても自然と元の位置に戻る形です

これを使えば、地震が起きると揺れてロックがかかり、地震が収まると自動で元の位置に戻ってロックが解除されます。

しかし、実際にテストをしてみると新たな課題も見つかりました。センサーの感度が良すぎると、普段の生活で発生するちょっとした振動でロックがかかってしまう一方で、感度を鈍くすると実際の地震の際に適切にロックが作動しないということが起きてしまうのです。

また、横揺れや縦揺れといった異なる振動に反応することも求められます。

この問題に対して菊地さんは、揺れの検知する感度が異なる2つのセンサーを用いるというアイデアで対応しました。

感度が良いセンサーは普段の揺れも感知しますが、感度の鈍いもうひとつのセンサーが反応しない限り、ロックがかかることはありません。

また、地震の揺れがおさまると、高感度のセンサーはいちはやくロックを解除しようとしますが、感度が低いセンサーは揺れが完全に止まるまでロック解除されません。

こうした二重のロックシステムによって、電気などを一切使用することなく、繊細で安全な動作を可能にしたのです。

さらに、「お皿が扉に寄りかかっているときは、扉を開けた瞬間に飛び出さないよう、あえてロックを解除しない」という、使う人の安全を考え抜いた優しい機能まで搭載しています。

こうして2002年、電気を一切使わずに「自動でロック&自動で解除」ができる耐震ラッチが発売されました。

自社に「地震マシン」を導入!?モノづくりへの本気度

ムラコシ精工の特筆すべき点は、製品が完成した後も「もっと安全に、もっと使いやすく」と改良を止めなかったことです。

「開発スピードを上げたい。それなら自分たちで地震を再現できる機械を作ろう!」と、自社工場に「3次元加振試験機(地震再現マシン)」を導入しました。

こうした試験機を自前で持っている部品メーカーは、業界でも極めて珍しいことです。

このマシンを使って、実際のキッチンの扉に耐震ラッチを取り付け、何度も何度もリアルな大地震の揺れを再現して実験を繰り返しました。

その結果、「震度5弱の揺れで確実にロックがかかり、揺れが止まれば自動で解除される」という、極めて高い精度とエビデンス(科学的根拠)を証明することに成功したのです。

あなたのキッチンの扉にも、あの日の教訓が生きています
ムラコシ精工には、「3+(サンプラス)」という開発コンセプトがあります。

  • 静か(Silent)
  • 安全(Safety)
  • なめらか(Smooth)

この3つを届けることで、使う人に「満足(Satisfaction)」を感じてほしい、という想いです。

普段、私たちが何気なく開け閉めしているキッチンの扉。その裏側にある小さな金具には、阪神・淡路大震災の教訓と、それを乗り越えようとした開発者たちの熱い情熱がギュッと詰まっています。

これからおうちを建てる方、リフォームをする方、または新しい家具を選ぶ方は、ぜひ扉の裏側を覗いてみてください。そこには、あなたの安全な暮らしを「静かに、安全に、なめらかに」見守る小さなヒーローが隠れているかもしれません。

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