「新築なのに冬は足元が冷える」「夏は2階が暑くて使いづらい」。
このような住まいの不満は、設備の問題ではなく住宅そのものの性能に原因があるケースが少なくありません。
その性能を判断するうえで、近年とくに重要視されている指標が断熱等性能等級です。
2022年の制度改正により、断熱等性能等級は等級7まで拡張され、かつて最高水準とされていた等級4は、現在では「最低限の基準」という位置づけに変わりつつあります。
本記事では、断熱等性能等級の基本的な考え方から、等級ごとの違い、そしてこれからの家づくりでどの水準を目指すべきかまでを、整理して解説します。
断熱等性能等級とは?

断熱等性能等級は、住宅の快適性や省エネ性を語るうえで欠かせない評価指標です。
これは、熱性能が高い・低い、という感覚的な話ではなく、建物全体がどれだけ熱を逃がしにくいかを数値として整理し、客観的に比較できる仕組みになっています。
まずは、この等級がどのような考え方で成り立っているのかを押さえておきましょう。
断熱等性能等級が評価している住宅性能の範囲
断熱等性能等級とは、住宅の外皮性能を評価するための指標です。
外皮とは、屋根・外壁・床・窓・玄関ドアなど、室内と屋外の境界となる部分を指します。
断熱材の厚みや種類だけでなく、窓や開口部を含めた建物全体の熱の逃げやすさを一定の基準に当てはめて等級として評価します。
そのため、同じ断熱材を使っていても、窓の性能や配置によって等級が変わることもあります。
等級が高い住宅ほど、外気温の影響を受けにくく、冷暖房に頼りすぎない住環境を実現しやすくなります。
UA値を基準にした断熱性能の考え方
断熱等性能等級の判定で中心となるのが「UA値(外皮平均熱貫流率)」です。
UA値は、住宅全体からどれくらい熱が逃げやすいかを示す数値で、数値が小さいほど断熱性能が高いことを意味します。
壁や屋根の断熱材だけでなく、窓の性能や面積比率もUA値に大きく影響します。
そのため、断熱等性能等級は「断熱材の量」ではなく、「建物全体の設計バランス」を反映した評価指標といえます。
ηAC値が示す夏の住みやすさの視点
断熱等性能等級では「ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)」も評価要素のひとつです。
これは、夏場にどれだけ日射熱が室内へ入り込むかを示す数値で、数値が小さいほど遮熱性能が高く涼しい家であることを意味します。
庇や軒の出、窓の位置、遮熱ガラスの採用など、設計上の工夫がηAC値に影響します。
つまり、断熱等性能等級は、冬の暖かさだけでなく、夏の涼しさも含めて評価する仕組みになっているのです。
断熱性能が低い住宅で起こりやすい問題
断熱等性能等級が低い住宅では、単に「寒い・暑い」と感じるだけでなく、暮らしの質に関わるさまざまな問題が起こりやすくなります。
- 結露による劣化と健康リスク
- ヒートショックのリスク
- 光熱費の増大
代表的なのが、室内外の温度差によって発生する結露です。
結露はカビやダニの原因となり、建材の劣化を早める要因にもなります。
また、暖かいリビングと寒い脱衣所・浴室との温度差が大きい住宅では、ヒートショックのリスクも高まります。
これは高齢者だけでなく、家族全員にとって無視できない問題です。
さらに、断熱性能が低い家ほど冷暖房への依存度が高くなり、光熱費がかさみやすい傾向があります。
断熱等性能等級は、こうした暮らしのリスクを未然に防ぎ、住まいの安全性を確保するための重要な基準とも言えるでしょう。
断熱等性能等級の区分と現在の位置づけ

断熱等性能等級は、近年の制度改正によって大きく意味合いが変わりました。
かつては最高水準とされていた等級4も、今では最低限の基準として扱われつつあります。
この章では、等級ごとの位置づけと、なぜ新たな等級が設けられたのかを整理します。
等級4までが前提だった時代の住宅性能
断熱等性能等級4は、2016年に定められた省エネ基準に基づく水準で、長らく新築住宅における性能の目安として扱われてきました。
当時は「等級4を満たしていれば十分に省エネ住宅である」という認識が一般的で、実際、多くの住宅がこの水準を基準に設計されてきました。
しかし、等級4が前提とされていた時代は、エネルギー価格が現在ほど高騰しておらず、住宅の快適性よりも「最低限の省エネ性能を満たすこと」が重視されていた側面があります。
そのため、一定の断熱性は確保されているものの、部屋ごとの温度差が生じやすく、冷暖房に頼らなければ快適性を保ちにくい住宅も少なくありませんでした。
住宅を取り巻く環境が変化した現在では、等級4は「性能として不足している」というよりも「これからの暮らし方や基準には合わなくなりつつある水準」と捉える方が適切です。
こうした背景から、従来の等級4を土台としつつ、より高い性能を段階的に評価する必要性が生まれ、等級5・6・7の新設へとつながっていきました。
等級5・6・7が新設された背景
断熱等性能等級5・6・7が新設された背景には、日本の住宅性能を取り巻く環境の大きな変化があります。
従来の等級4は、制定当時こそ一定の省エネ性能を満たす基準でしたが、近年のエネルギー価格の上昇や温室効果ガス削減の要請を踏まえると、十分とは言えなくなってきました。
また、欧米諸国と比較すると、日本の住宅は断熱性能が低い水準にとどまっているという課題も指摘されてきました。
こうした状況を受け、住宅の省エネ性能を段階的に引き上げるために、従来基準を細分化し、より高い性能を評価できる仕組みとして等級5・6・7が設けられました。
等級の新設は、単により高性能な家を建てるためだけでなく、将来的な基準強化を見据え、住宅性能の底上げを図る目的もあります。
かつて最高水準だった等級4が最低基準へと位置づけを変えたのは、その流れの一環といえるでしょう。
ZEH水準と断熱等性能等級の関係
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、住宅で消費するエネルギー量を抑えたうえで、太陽光発電などによってエネルギー収支を実質ゼロに近づける考え方です。
このZEHを成立させる前提条件として欠かせないのが、高い断熱性能です。
断熱等性能等級5は、ZEH基準に相当する断熱水準とされており、エネルギー消費量を抑えるためのスタートラインに位置づけられています。
断熱性能が低い住宅では、いくら創エネ設備を導入してもエネルギー収支を改善しにくく、ZEHの本来の効果を発揮することはできません。
そのため、ZEHを「特別な住宅」ではなく、これからの標準的な住宅性能として捉えるのであれば、断熱等性能等級5以上を前提に考える必要があります。
さらに快適性や将来性まで見据える場合は、等級6以上を検討することで、ZEHの考え方をより実感しやすい住環境につながります。
断熱等性能等級が暮らしに与える影響

断熱等性能等級の違いは、図面や数値だけでは実感しにくいものですが、実際の暮らしの中では確実に差となって表れます。
冷暖房の効き方や室内の温度感、さらには住み続ける中での快適性やコスト面まで、断熱性能は日常生活の質に深く関わっています。
この章では、断熱等性能等級が暮らしにどのような影響を与えるのかを整理します。
主なものをまとめると以下のとおりです。
- 冷暖房効率を上げ光熱費を節約できる
- 温度ムラの少ない室内環境を保てる
- 住み続けることでよりメリットが感じられる
- 長く使い続ける資産として価値が高まる
詳しく見ていきましょう。
冷暖房効率と光熱費への影響
断熱等性能等級が高い住宅では、外気温の影響を受けにくいため、冷暖房効率が大きく向上します。
冬は暖めた空気が逃げにくく、夏は外の熱が室内に入り込みにくいため、エアコンの稼働時間や設定温度を過度に上げ下げする必要がありません。
その結果、年間を通じた光熱費が安定しやすくなります。
断熱性能が低い住宅では、快適な室温を保つために冷暖房に頼り続ける必要がありますが、断熱等性能等級を高めることで、エネルギー消費そのものを抑えやすくなります。
これは短期的な節約だけでなく、長期的な家計管理の面でも大きなメリットといえるでしょう。
温度ムラの少ない室内環境
断熱性能の差は、室内の温度ムラとして最もわかりやすく現れます。
断熱等性能等級が低い住宅では、リビングは暖かくても廊下や脱衣所、トイレが極端に寒くなるといった状況が起こりやすくなります。
一方、断熱等性能等級が高い住宅では、家全体の温度差が小さくなり、どの部屋でも比較的安定した温熱環境を保ちやすくなります。
これは単なる快適性の問題にとどまらず、ヒートショックのリスクを抑えるという健康面での効果にもつながります。
家の中を移動するたびに寒暖差を感じるストレスが減る点も、暮らしやすさを大きく左右します。
住み続けることで見えてくる断熱性能の効果
断熱等性能等級の影響は、住み始めた直後よりも数年単位で住み続ける中でより強く実感される傾向があります。
外気の影響を受けにくい住宅では、季節の変わり目でも室内環境が安定しやすく、暑い日と寒い日で暮らし方を大きく変えなければならない、といった負担が少なくなります。
また、断熱性能が高い住宅は結露が発生しにくく、内装材や構造体の劣化を抑えやすい点も特徴です。
これは、見た目の快適さだけでなく、将来的なメンテナンスコストや修繕リスクを抑えることにもつながります。
断熱等性能等級は、日々の住み心地だけでなく、住まいを長く良好な状態で保つための性能指標でもあるのです。
住宅の資産価値と将来性
今後、住宅に求められる性能基準はさらに引き上げられていくことが予想されます。
その中で、断熱等性能等級が高い住宅は、将来的にも性能面で不利になりにくいという強みがあります。
中古住宅市場においても、断熱性能や省エネ性能への関心は年々高まっています。
断熱等性能等級は、購入時の快適性だけでなく、将来の売却や住み替えを視野に入れた際の評価にも影響する要素です。
住宅を消費するものではなく「長く使い続ける資産」として考える場合、断熱性能の高さは重要な判断材料になります。
断熱等性能等級を見るときの注意点

断熱等性能等級は重要な判断材料ですが、等級の数字だけを見て決めてしまうのはおすすめできません。
住宅の性能は複数の要素が組み合わさって発揮されるため、評価指標の読み取り方には注意が必要です。
ここでは、見落としやすいポイントを整理します。
まとめると以下のとおりです。
- 数値だけで住み心地が決まるわけではない
- 地域区分による基準値の違いを見落とさない
- 施工品質によって性能が左右される点に注意
- 断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級は別の指標
- 等級の高さだけで住宅会社を判断しない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
数値だけで住み心地が決まるわけではない
断熱等性能等級は、住宅の外皮性能を数値で評価する指標ですが、それだけで実際の住み心地がすべて決まるわけではありません。
たとえば同じ等級であっても、窓の配置や日射取得の考え方、間取りの違いによって、体感温度や快適性には差が生じます。
等級はあくまで性能の目安であり、暮らしやすさそのものを保証する数値ではないことを理解しておく必要があります。
設計全体の考え方とあわせて読み取ることで、断熱等性能等級の意味がより正確に見えてきます。
地域区分による基準値の違いを見落とさない
断熱等性能等級は、全国一律の基準ではなく、地域ごとの気候条件を踏まえて設定されているため、同じ等級であっても、地域区分が異なれば求められる断熱性能の水準も変わります。
他地域の事例や数値と単純に比較してしまうと「同じ等級なのに思ったほど快適ではない」と感じる原因になることがあります。
断熱等性能等級を見る際は、自分が建てる地域の基準に照らして判断することが重要です。
施工品質によって性能が左右される点に注意
断熱等性能等級は、設計段階での計算結果に基づいて評価されますが、実際の性能は施工品質に大きく左右されます。
断熱材の施工精度や隙間処理が不十分な場合、設計上の等級どおりの性能が発揮されないこともあります。
そのため、等級の数値だけでなく、施工体制や過去の実績、現場管理の考え方なども確認しておくことが大切です。
数値と実態の差をできるだけ小さくする視点が求められます。
断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級は別の指標
断熱等性能等級と混同されやすい指標に「一次エネルギー消費量等級」があります。
どちらも省エネ性能を評価する基準ですが、評価対象は異なります。
断熱等性能等級は建物の外皮性能を評価する指標であり、設備の効率そのものは含まれていません。
一方、一次エネルギー消費量等級は、冷暖房や給湯、照明設備などを含めたエネルギー消費量を評価します。
住宅性能を正しく理解するためには、これらの指標を切り分けて捉え、それぞれの役割を理解することが重要です。
等級の高さだけで住宅会社を判断しない
断熱等性能等級の高さを強みとして打ち出す住宅会社も増えていますが、等級の数字だけで会社を選ぶのは注意が必要です。
同じ等級でも、設計の考え方や施工精度、標準仕様の内容によって、実際の住み心地には差が出ます。
どのような断熱仕様を採用しているのか、どの等級をどのような考え方で提案しているのかを確認することで、数字だけに振り回されにくくなります。
断熱等性能等級を軸に考える、これからの家づくり

ここまで、断熱等性能等級の考え方や等級ごとの違い、暮らしへの影響について解説してきました。
最後に、本記事のポイントを整理し、これからの家づくりで意識したい考え方をまとめます。
- 断熱等性能等級は、住宅の外皮性能を評価する重要な指標
- 等級4は最低基準となり、これからの家づくりでは十分とは言えない
- 等級5がスタートライン、快適性を重視するなら等級6以上が目安
- 断熱性能は、冷暖房効率や光熱費、室内の温度ムラに大きく影響する
- 等級の数字だけでなく、地域条件や設計・施工品質も含めて判断することが大切
断熱等性能等級を正しく理解し、自分たちの暮らし方に合った水準を選ぶことが、長く快適に住み続けられる家づくりへの近道です。

