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【岡沢由衣さん(パネル製造業)】パネル製造で感じる「ランナーズハイ」に似た無敵感 自分との対話で精度を極める楽しさとは―

2026 2/18
家づくりの担い手たち
2026年2月5日2026年2月18日
中山紀文

モックの千葉工場で働く岡沢由衣さんは、木造大型パネル生産販売部に在籍し、主任として、日々、工場内で製造に携わっています。ある意味では新しい大工の形を示そうとしている岡沢さんだが、なぜ、この道を選んだのだろう。

目次

人手不足を補う「オフサイト大工」の先駆者として

和歌山県田辺市の山長商店。高精度に品質管理された紀州材を供給しており、住宅業界でも高い評価を得ている。その山長商店のグループ会社のモックでは、千葉工場において木造大型パネルの製造を行っている。

この木造大型パネルはウッドステーションが開発したもので、工場などでサッシなどが組み込まれた状態のパネルを製造し、それを現場に持ち込み施工していくもの。今注目されている「オフサイト建築」の一種で、深刻な作り手不足に直面する住宅業界にひとつの解決策を提示している。

モックの千葉工場で、“オフサイト大工”として活躍しているのが岡沢由衣さん。千葉工場の操業時からのスタッフで、3年以上にわたり木造大型パネルを製造してきた。まさに“オフサイト大工”の先駆者的な存在だ。

スーパーマリオの無敵状態 ランナーズハイに魅了されて

その岡沢さん、学生時代は陸上部で長距離ランナーとして活躍した。幼少の頃から運動神経がよく、スポーツテストで学年1位になることも。小学校の時にはミニバスケットに夢中になっていたが、中学にバスケ部がなく陸上部に入部することに。そこで長距離走と出会う。

「とにかくランナーズハイを味わいたくて夢中で走っていました。ランナーズハイはいつでも味わえるわけではなく、長く続くこともあれば、すぐに終わってしまうこともあります。ランナーズハイに入ると、スーパーマリオでスターをとって無敵になった感じになるんです。それを一度味わうと、もうマラソンは止められません」。

スーパーマリオの無敵状態。学生時代から長距離走が苦手だった筆者でも、そう表現されると、なんとなくランナーズハイの感覚が分かるような気がした。Bダッシュで、敵を蹴散らかしながらどこまでも走っていく無敵感。そして、調子に乗り過ぎて穴に落ちるみたいな…。

岡沢さんはもうひとつ、長距離走の面白さを教えてくれた。

「走っている最中は一人の世界に入り込めます。『大丈夫?まだ行けるよね』と、自分で自分に語りかけながら走っていると、すごく感覚が研ぎ澄まされていくんです」。

「無敵感を感じるランナーズハイ」と「自分と会話する貴重な時間」。長距離走に魅了されたこの2つ感覚を今の仕事でも感じることがあるという。

柔道整復師の道からパネル製造へ DIYで感じた木の魅力

長距離走をやるなかで、度重なる怪我や故障にも悩まされたという岡沢さん。高校卒業後は体育大学へと進み、体育教師になることを考えていた。

陸上部の顧問の先生に相談したところ、体育教師は人気の職種で卒業後に職に就けるか分からないと言われた。そこで、自分が整骨院に通うことも多かった経験から、柔道整復師としてアスリートなどの心身をケアする道へと進むことを決意。

「専門学校に3年間通い国家資格を取得し、接骨院、スポーツトレーナー、整形外科、デイサービスセンターなどで働きました。トータルで13年くらい柔道整復師として仕事を続けました。転職を繰り返しながら、様々な仕事を経験し、少し他の道も経験したいなと思い始めた頃、重度の化学物質過敏症になってしまい、仕事を続けることが困難になりました」。

前兆もなく、突然、化学物質過敏症を発症した岡沢さん。その症状は「死ぬことを覚悟しました」というほどだった。

喉まで蕁麻疹が発症し、呼吸ができない。症状が緩和しても、ショッピングモールなどに出掛けると、頭が痛くなり動けなくなる。電車に長く座っていると、座席と接している部分に蕁麻疹が出てくる―。

その症状を聞くだけでも、当時の岡沢さんの辛さが相当なものであったことが分かるだろう。

時間の経過ともに、症状は少しずつ緩和してきたが、「もう普通の仕事には戻れないかな」と考えることもあったそうだ。そんな時、友人を手伝う形で古くなった住宅などをDIY的に改修する作業を経験する。

「開放的な環境であれば大丈夫かなと思い、友人の作業を手伝っていました。ビニルクロス貼りやペンキ塗りなどを経験したのですが、どれも集中して作業を行えず、上手くできませんでした。なぜか木材と接している時だけ『楽しい』と感じました。その楽しさはマラソンをやっている時に似ていました」。

理由は分からない。でも、木材と接していると楽しい。自分でも理解できない、ランナーズハイに似た感覚。その感覚をもっと味わいたい。そう考えている時にモックの求人を目にした。

「求人募集記事に『DIYが好きな人』、『インパクトドライバーを使う作業が好きな人』と書かれていて、正直、どういう仕事なのか分かりませんでしたが、応募しました。実際に仕事を始めてから、『こういう仕事だったんだ』という感じでしたね(笑)」。

1㎜にこだわる理由 脳内に溜まっていく納得感とノウハウ

いよいよ新設されたモックの千葉工場で働くことになった岡沢さん。当初は戸惑うことも多かったそうだ。

「1㎜単位でこだわる必要がある部位もあり、初めは『そこまでこだわる必要があるのかな』と思っていました。建て方指導と玉掛けの手伝いで現場に行った時に、1㎜にこだわる必要性が分かりました。私達が1㎜にこだわるから、現場でスムーズに納めることができる。そのことが分かってくると、ある程度まではアバウトで構わない部位があることも分かるようになりました」。

経験を積むなかで図面から読み取れる情報も増えていく。

「毎日図面を見ていると、住宅が完成した姿をイメージできるようになってきました。そのこともパネル製造時に“こだわり所”を見極める参考になることを知りました。図面を見ながら自分が好きそうな家を見つけることもできるようになりました」。

細部の納まりをイメージしながらパネルを製造し、図面を自分の脳内で立面化し、さらに想像を膨らませていく。岡沢さんは、まさに大工のようなノウハウと技術を身に付けようとしている。一般的な大工と違うのは、働く場所が現場ではなく工場であるということ。

逆に言えば、働く場所が工場であるからこそ、多くの人に大工という職種の門戸を開くことができるのかもしれない。

取材後半、岡沢さんに「マラソンに未練はないですか」と聞いてみた。

「全くないですね。今の仕事でもランナーズハイに似た感覚を味わえますから。自分で自分に語りかけながら、より品質が高いものを製造していくという点もマラソンに近いかもしれません」。

岡沢さんは、作業中に絶えず自分と会話しながらパネル製造のノウハウや技術を研磨しているそうだ。どうしても自分だけで解決できないことは、現場に行ったときに大工に聞いたり、設計者に質問したりしながら回答に辿り着いていく。

脳内に納得感とノウハウを蓄えていき、“オフサイト大工”としての技能を高めていく。古くて、新しい大工像を岡沢さんは示そうとしているのかもしれない。

取材協力
モック株式会社
ホームページ:https://moc-net.jp/

家づくりの担い手たち
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